あがり症、書痙、社会不安障害の治療法選択について(本郷心療内科・植村院長)

お断り:このページの大部分は、H13年に旧植村クリニック(大津)のHPに上梓されたもので、当時の医療状況を伝えるものです。
植村クリニックはH24に閉院しましたが、植村医師は
本郷心療内科(東京)で社会不安障害の治療を続けております。

 あがり症、書痙、社会不安障害で当クリニックを受診される患者さんの多くが、長い間、様々な症状に悩まされてきたにもかかわらず、「どこで治療を受ければよいのかわからなかった」、「心療内科などで薬をもらったが良くならず、カウンセリングや森田療法を勧められた」、「心理療法も考えたが費用が高くてあきらめた」、「催眠療法、呼吸法、話し方教室等に大金をつぎこんだが治らなかった」など、多くの共通した経験をお持ちです。

 確かにあがり症や書痙の治療は、困難であると考えている人(医師も含めて)は少なくありません。しかし、私のこれまでの経験では、心療内科の患者さんの中でも、薬物療法が劇的に効果を発揮するのが、このタイプの患者さんなのです(詳しくは治療例集メール特集をご覧ください)。また、当方のHP公開により難治性の患者さんが増えて治療成績が低下することも予想しておりましたが、そのようなことは全くなく、軽症にもかかわらず多くの患者さんが全国各地で悩んでおられることを知りました。そこで今回、今後、わざわざ遠方からお越し頂く方の便宜も考慮して、あがり症、書痙の治療法選択に関する解説を試みました。このページが皆様の治療法の選択に役立てば幸いです。

            
 

: あがり症、書痙(以下、あがり症等と記します)の治療について調べると、一般の薬物療法以外に、漢方薬治療、カウンセリングや認知行動療法を含む各種精神療法、催眠療法、自律訓練法、その他、あがり症セミナーのような心理療法、などがあります。どのように考えて治療を選べばよいのでしょうか? 

治療法の選択基準は、有効性が高く、費用が安く、時間がかからず、安全性が高いことだと思います。

 以上の中で、患者さんがもっとも重視されるのはその療法の有効性でしょうが、各種療法の宣伝HPをみてみれば、それぞれが各自の療法の優秀性を唱えており、果たしてどれが自分に一番適しているのか、一般の方にはその判断は簡単ではないと思います。民間療法に大金をつぎ込んだ末に当クリニックを受診され、当方の薬剤で軽快する方は珍しくはありません。しかしながら、民間療法(ここでは病院や医院以外での治療の総称です)のHPをのぞいてみると、逆に薬剤が無効であるばかりか副作用で苦しみ、その上医者の態度も傲慢で、民間療法でようやく救われた患者さんの話が多数掲載されています。私自身は心療内科・神経科領域の患者さんに最も有効性が期待できるのは、Βブロッカーを中心とする薬物療法であると考えて実践し、効果を上げております(患者さんからのメール特集もご覧ください)。しかしながら残念なことに、客観的データに基づく正確な評価はできませんので、ここでは他の療法との有効性の比較は行わず、その他の選択基準により治療法の選択順位について客観的に考察したいと思います。

[費用]
 まず、費用について比較すると、健康保険でカバーされる医療機関での薬物療法が一番安く、月1〜2回の通院で、1回2000-4000円程度で済むはずです。(本郷心療内科では保険証は使用できませんが、お薬を沢山処方しますので通院間隔は数ヶ月以上の方がほとんどです)

 カウンセリングや認知行動療法は医療機関以外の民間カウンセラーによる場合は、1時間あたり1万円以上が多いのではないかと思います。毎週か2週毎の通所が一般的でしょうか。

 医療機関でもカウンセリングや認知行動療法を行っているところがありますが、この場合は健康保険の効かない自由診療のことが多く(保険が効いても予約料金などと称して高額設定だったりすることも多い)、価格設定も民間カウンセラーと大差ないと思います。医者あるいは専属のカウンセラーがじっくりカウンセリングしてくれて、しかも保険が使える病医院があれば理想的ですが、そう簡単にはみつからないだろうと思います。

 催眠療法やあがり症セミナーなどと称する内実不明の療法については、3日間で5万円〜15万円などという高額設定のものもありますが、1日ごとの支払いのできる所が安心と思います。催眠療法や森田療法を行う病医院も少数ありますが、通常、自由診療で保険は使えないことが多いと思います。

 漢方薬については漢方薬局で購入する場合、薬の種類にもよりますが1ヶ月に1万円程度かかるのは珍しくないと思います。医者から処方される漢方薬は保険が効きますから、病医院で処方してもらうのも一法でしょう。処方箋を扱う漢方薬局で、漢方薬を処方してくれる医師を教えてくれることもあるようです。

【即効性】
 治療効果が得られても、時間がかかっていたのでは費用もかさみますし、仕事や家庭、学校にも影響が出てしまいます。効果がすぐ得られれば仕事や学校も休まなくてすみます。多くのあがり症に最も即効性のあるのは、βブロッカーを中心とする薬物療法で、これは間違いありません(患者様からのメール特集をご参照ください服薬当日から気持ちが落ち着き、自信を取り戻して通院が1回で済む方も珍しくありません。また、もしも不運にして薬剤の効果が得られない場合(そのようなことは滅多にありませんが)でも、2〜3回以内の通院で結論を出すことができます。これは治療費と時間を無駄にしないという点で、とても大切なことです。

 あがり症セミナー、認知行動療法、カウンセリング、催眠療法、漢方薬による治療等では1回の治療で十分な効果が得られることは、まず期待ないでしょう。森田療法のようにまとめて休日をとらないと受けられないものもあります。さらに問題なのは、全く効果が得られなくてもその結論が出るまでに何ヶ月もかかったり、その間に少なからぬ費用を要することもあります。治療期間中に治療費が続かなくなり、中断してしまうことも珍しくありません。いずれにしろ、予算をしっかりと立てて選択すべき治療法であることは間違いありません。

【安全性】
 薬物を使用しない療法を実施している人々は、薬の副作用を実際以上に強調します。一日中頭がボーとして早く呆けてしまうとか、癖になって止められない、依存症になって中毒になるなど、常套文句です。確かに、「よその心療内科で薬をもらったが眠くてのめなかった」などと訴える方はおられますので、必要量以上の処方をする医者はいるかもしれません。ただし、当クリニックでは、薬の量は少な目で、各人ごとに調整しますので、そのようなことは、めったにありません。それから、状態が良くなると薬の量は減らせます。当クリニックの特徴の一つは薬の減らし方の指導に重点をおいていることです。私はこれは非常に大切なことと考えております。

 薬の副作用を怖がる人がたまにおられますが、当クリニックで処方される薬剤は安全性も高く、風邪薬、鎮痛解熱剤、抗生物質等の方がはるかに副作用的には怖い薬剤です。それから他の療法についても、安全性については十分な配慮が必要と考えますが、これは専門外ですので記しません。

【その他】
 他の療法の人々は「あがり症等は薬では治らない」と宣伝します。しかしながら、私は、あがり症等は薬を上手に使い、また適切なアドバイスを併用することで、症状はほとんど消失し、薬もわずかな量で済ませられることが多いと考えております。実際、当クリニックでは、薬は持っていても、めったに飲まないという患者さんも多いのです。このような方は私は治ったも同然だと思います。

【まとめ】
 結論として、まず、病医院で薬物療法を受けてみることをお勧めします。本郷心療内科でしたら、たった1回の受診で、ほとんどの患者さんが十分な効果を実感できます。ただし、同じ心療内科・精神科でも、数ヶ月以上の間、毎日服用し続けなければならないSSRIというタイプの抗うつ剤を安易に処方する医者もおります。その場合は本当にSSRIが必要なのかどうか、しっかり確認されることをお勧めいたします。カウンセリングや心理療法等による治療については、薬物による治療で不十分なときに検討されたら良いと思いますが、一般的に費用も時間もかかりますから、 前もってよく調べることが大切でしょう。


: 薬物療法の利点は理解できましたが、植村クリニックは何か特別な薬でも使用するのでしょうか?それから、遠方ですので、同じ様な治療を紹介してくれる病医院を教えてください。

: 処方は抗不安薬を中心とする一般的なものです。症状によっては、SSRIと呼ばれる抗うつ剤や、βブロッカーと呼ばれる動悸や震えを抑える心臓の薬等も使用します。当クリニックが特別な薬を使うとか、独特の使用法をするということはありません。私のこれまでの臨床経験に基づき、各患者さんにあわせた、いわばさじ加減の投薬と、簡単なアドバイスを行うだけです。私は対人恐怖症等の治療に関して共同の研究をしたわけでも、他の先生から特別の指導を受けたわけでもありませんので、同じ様な治療方針の医師を紹介することはできません。私からの助言は、自分に合う薬を出してくれる医者に会えるまで何カ所か受診してみることと、その際に今まで無効だった薬の名前を告げることです。なお当クリニックへの遠方からの通院につきましてはFAQもご参照ください。

追記(平成18年4月): 最近、あがり症や対人恐怖症で病院を受診される患者さんに対し、社会不安障害という病名が使用されるようになりました。そこで今回社会不安障害の薬物療法というページを用意いたしましたので、そちらも是非、ご覧ください。