インデラルによる、あがり症・社交不安障害(SAD)の薬物療法

 
 私(本郷三丁目・植村クリニック院長)はこれまでの二十年間で、1万人近くのあがり症の患者さんを治療して参りました。ここでは、私のこれまでの経験を生かして、あがり症や社交不安障害の薬物療法について御説明したいと思います。あがり症・社交不安障害で悩みの皆様のご参考になれば幸いです。

            
 

あがり症・社交不安障害の薬物療法に使われる薬剤

1.β-ブロッカー
動悸・震えを強力に抑制する心臓関係の薬です。血圧を下げる作用もあります。緊張場面の前に服用します。発表(プレゼン)や挨拶等、人前で話す時などに動悸がして声や手足が震えるような人には、著明な効果が得られます。人前で字を書く時や、お茶を出す時、演奏会で楽器を演奏する時などに手が震えるような人にも奏功します。

βブッロッカーで最も使用されているのがインデラルです。インデラルは妊娠中や授乳中も服用可能なので、若い女性の第一選択薬となります。当クリニックで処方されるインデラルは、高品質の先発品なので安心して服用できます。海外の輸入物のジェネリックよりも少量の服用で十分な効果が期待できます。緊張していなくても体質的に手などが震える本態性振戦という病気の治療には、αβブロッカーのアロチノロールが使用されています。

同じβブロッカーの仲間でも、メインテート(ビソプロロール)やテノーミン(アテノロール)は、あがり症に対する治療効果は弱いので、私は処方しません。最近はメインテートが効かないという理由で、当クリニックを受診される方が増えています。

あがり症で震えが主症状の人は、軽度の本態性振戦とも考えられます。私は
震えが主症状の患者さんは神経内科的なアプローチであるβブロッカーで治療すべきであって、SSRIのような精神科的な治療法で治そうとするのは誤りであると考えています。ただし残念ながら、精神科の医師の中にはβ-ブロッカーの処方に不慣れで、処方したがらない人も多くみられます。また、喘息があったり心臓病があると使用しづらい場合があります。

2.抗不安薬
いわゆる安定剤のことです。不安・緊張を和らげ、気分をリラックスさせます。緊張場面の前に服用するようにします。緊張場面の前にアルコールを一杯ひっかけていく人がいます。抗不安薬はアルコールと似た効果がありますが、アルコールより安全です。ただし、乱用すると依存症になります(医師の指示通りに服用すれば心配いりません)。最近はできるだけ必要最小量を使用すべきであるとの考え方になっています。私のクリニックでは、抗不安薬もすべて高品質の先発品を処方しております。

3.SSRIと呼ばれるタイプの抗うつ剤
元々はうつ病やパニック障害の治療薬でした。十数年前から社交不安障害の患者さんの治療に使用されるようになりました。どちらかというと、引きこもり気味の症状の重い患者さんで効果を発揮します。

SSRIの効果を得るためには、十分な量を毎日服用しなければいけません。有効量に個人差があるので、定期的に通院し投与量を調節する必要があります。
飲んですぐ効く薬ではありません。効果発現までに10日〜2ヶ月程度見込んでおく必要があります。この薬が効いてくると、一日中気持ちが明るく積極的になり、あまりクヨクヨしなくなるという特徴があります。

SSRIが効きすぎると、楽観的になりすぎて言いたい放題になったり、浪費したり、物事を適当に済ませたりする可能性があり、十分な注意が必要です。このような問題から現在、本郷三丁目・植村クリニックではSSRIの処方は行っておりません。SSRIは他の薬に比べて値段が高いのも欠点の一つですが、製薬会社にとっては莫大な利益をもたらしますので、製薬会社はあがり症のパンフレットをいくつも作成して病院の待合室においてもらうなど、熱心にPRしています。

4.その他の薬剤
緊張場面で吐き気がしたり、下痢、腹痛などがする場合は、消化器用の薬も使用します。顔面等からの発汗で悩んでいる方には、汗止め用の薬も使用します。


あがり症・社交不安障害の治療薬剤の選択

個々の患者さんにどの薬剤を使用するかは、社交不安障害の症状だけでなく、緊張場面の頻度、緊張場面の予想が可能か、定期的な通院が可能か、他の精神症状や身体疾患がないかなどを総合的に検討して処方を考えていくことになります。私は基本的には次のような方針で処方しています(現在、本郷心療内科ではAのみ)。

A.β-ブロッカー(+抗不安薬)による療法を優先
a. 社交不安障害の主症状が動悸、声、手、足等の震え、顔面のこわばり等で、緊張場 面が会議、朝礼など特定の場面に限定されていること
b. 緊張場面が予想可能で、30分〜2時間位前に服薬可能であること
喘息がないこと。血糖降下薬を使用していないこと。

B.SSRIを優先(必要によりA.も併用)
a. 緊張場面が会議等に限定されず、外出するだけでも緊張するなど、日常生活の多くの場面で緊張してしまう場合。
b. 緊張場面を予想することが困難で、Aの薬剤を使用しにくい場合。
c. 主症状が動悸や震え以外で、Aの薬剤の効果が期待しにくい場合(例えば、赤面症の一部など)
d.社交不安障害以外に、うつ病、パニック障害、強迫性障害、月経前の強い抑うつ・イライラなどがある場合。
定期的な通院が可能であること

例えば、結婚式のスピーチで声や手が震えるのが心配だが、他の日常生活には問題がない、というような方は、Aの薬を当日一回服用すれば十分です。たった一回の緊張場面のために、SSRIを何週間も前から毎日服用する必要はありません。それにSSRIの方がよく効くという保証もありません。会社で月一回程度、会議や朝礼で発表があって不安という人、コンサートで演奏の時に手が震えるのが心配などという人も、当日だけAを服用すれば十分でしょう。

一方、営業活動などで毎日取引先で話すのが苦痛とか、人前で話す時などだけでなく、電車に乗るだけでも緊張してしまい外出も不安、などという場合はSSRIの方が好ましいかもしれません。このようなタイプの社交不安障害の方を抗不安薬だけで治療しようとすると、薬を飲みすぎて依存症になってしまう危険性もあります。

              

あがり症用のインデラルの服用方法(飲み方)と副作用

あがり症用のβブロッカーとして、私は以前、ミケラン(カルテオロール)をよく処方していました。しかしながら、この薬は筋肉痛などの副作用がおきやすいので、最近はインデラルの処方をすることが多くなっています。

 インデラルは有効性が高く、安全性も高い、あがり症の治療には大変有用な薬剤です。緊張時の動悸や震えに対する特効薬とも言えます。とは言いましても、服用する際には副作用に十分な注意が必要です。以下に、あがり症治療におけるインデラルの上手な使い方や、使用上の注意点について御説明したいと思います。

A.あがり症治療におけるインデラルの服用方法

当クリニックでは、多くの方がインデラルを上手に使って、あがり症を着実に改善しています。ほとんど薬を飲まなくても大丈夫になる方もおられます。ここに、その方法を御紹介しましょう。

最初は、インデラルと抗不安薬を、緊張場面の前に指示通りに服用します。植村クリニックでは、インデラルは品質に優れた先発品を処方しますので、ほとんどの人が1錠の服用で十分な効果が得られます。海外のジェネリックを服用した場合は効果にかなりのばらつきがあり、1回に4錠も服用するようになる人もいます。

薬を指示通りに服用すれば、通常、動悸・震えには奏功しますので、動悸・震えが主症状の方は、薬を飲んでおけば大丈夫、という安心感を次第に感じるようになってきます。

安心感が生じ、緊張感が緩和してくると、気持ちがリラックスするだけでなく、普段から震えやすくなっていた筋肉自体もリラックスしてくるので、少し位薬を減らしても、震えがおこらなくなってきます。

薬の減らす順序は抗不安薬からがよいでしょう。人数の少ない会議や、偉い人のいない会議では、薬を割線で割って半錠減らしてみましょう。抗不安薬を半錠でも減らしてうまくいくと、あがり症が改善した実感がわき、もう半錠減らしてみようという気持ちになってきます。

中間目標はインデラル1錠だけで緊張場面を乗り切れるようにすることです。もちろん緊張場面の程度によって、抗不安薬を十分併用したり、完全に抜いたりしながら、インデラルだけで切り抜けられる場面を少しずつ増やしていきます。

そうして、さらに自信がついてきたら、
インデラルを半錠にしてみましょう。ただしインデラルは硬くて割りにくいので、ハサミで割線で切るとよいでしょう。ピルカッターという小物をネットで買うのもよい方法です。

インデラル半錠で大丈夫になる方は全然珍しくはありません。
次のステップは、このあとがんばって1/4錠にしてみることです。このレベルまでいくと、薬なしでいける場面も増えてきます。朝礼のスピーチ位なら薬なしでも大丈夫とか、100人位まで平気になったという方もおられます。1/8錠まで割っていた方もおられます。そうしているうちにだんだん自信もついて通院終了になる方々も増えてきます。

他のβブロッカーでも同じような飲み方ができるかというと、インデラルほど割りやすい薬はないように思います。またアロチノロールのような糖衣錠は割りにくいだけでなく、割ると非常に苦味が強いのでお勧めできません。


B.インデラル服用上の注意点と副作用

以下の方は服用できません。

1.気管支喘息のある人。喘息発作が悪化し、重症化します。
2.心臓病の種類によっては服用できません。
3.低血圧の人。
上記以外にも色々ありますが、持病のある方は主治医に相談されることをお勧めします。

以下の方は慎重に服用する必要があります。

1.徐脈(=脈が遅い)の人・・・脈拍がさらに減少します。
2.降圧剤を服用中の方・・・血圧がさらに低下します。
3.血糖降下薬使用中、あるいは血糖値が低めの方・・・低血糖発作がおきやすくなります。
4.末梢循環障害のある方・・・末梢の血液の流れが低下する可能性があります。

併用禁止の薬
1.マクサルト(片頭痛治療薬)・・・インデラル服用24時間以内はマクサルトの服用はできません。

併用注意の薬は少なくはありません。
他の薬を服薬中の方は主治医に確認しましょう。

主な副作用

1.アレルギー(発疹等)・・・私には経験ありませんが、アレルギーが出たら服用中止しましょう。
2.低血圧・・・緊張場面では血圧は上がっているので、普段の血圧が正常の人なら通常、問題になりません。
3.胸部不快感など・・・まれに認めます。
4.頭痛など・・・まれに認めます。
5.気分の変化・・・まれに認めます。
6.霧視など・・・きわめてまれに認めます。
7.口渇、胃部不快感、便秘、下痢・・・まれに認めます。
8.その他、血液検査の異常など・・・あがり症の頓服程度で異常がでることはきわめてまれです。

副作用対策 おかしいと思ったら、いったん服薬中止し、主治医に相談しましょう。副作用がでてなくても、年1回健康診断を受けて、血液検査、心電図検査、尿検査を受けておきましょう。自覚症状がなく、健康診断も正常なら、まず心配ないでしょう。



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