あがり症の治療に使われるβブロッカーについて(インデラルを中心に)

本郷三丁目・植村クリニック院長
植村 秀治

 私は、これまでの二十数年間で、約1万3千人のあがり症の患者さんを治療してきました。これらの患者さんの約9割は、声や手などの震えと心臓の動悸で悩んでおられます。この震えと動悸に奏功するのがβブロッカーと呼ばれるグループの薬剤です。


βブロッカーは、ビジネスマンはもちろん、ミュージシャン、医療関係者、主婦、学生さん等、人前での震えや動悸に悩んでいる方々にとって、大変人気のある薬物となっております。副作用が少なく治療効果も高いことから、あがり症の薬として、世界中で広く使用されています。   

βブッロッカーには数十種類の薬剤がありますが、そのうちの数種類があがり症の治療に使用されています。代表的なものを以下に取り上げて見ましょう。

〔インデラル、プロプラノロール〕

これまでに私が最も多く処方してきたβブロッカーがインデラルです。私のあがり症治療の第一選択薬です。欧米でも一番人気のある薬です。インデラルは効き始めが早く、切れ味も良いという特徴があります。妊娠中や授乳中でも服用可能と考えられることから、若い女性の第一選択薬となります。音楽家の方に処方しても、音感に異常を来たさないことから大変好評を頂いております。

当クリニックで処方されるインデラルは、高品質の国産の先発品なので安心して服用できます。海外からの輸入物には効きめが落ちるものがあります。現在は個人でのインデラルの輸入は違法となので注意しましょう。

〔アロチノロール〕

緊張していなくても体質的に手などが震える本態性振戦という病気の治療には、アロチノロールが使用されています。アロチノロールはαβブロッカーの仲間ですが、臨床的な作用はほとんどβブロッカーと同じで、あがり症にも効果的です。私のクリニックではインデラルの次によく処方される薬となっております。効き目はインデラルよりやや弱めで、効果がでるまでの時間も長めになります。副作用も少なめなので血圧の低い方にも使用しやすい特徴があります。この薬も音楽家の方々に好評を頂いております。

〔セロケン、メトプロロール〕

インデラルやアロチノロールよりも効き目は弱くなりますが、その分、副作用も少なめで喘息の人にも使用可能となっています。当クリニックでは、喘息のある患者さんに処方して喜ばれております。音楽家の方で音感がずれるという方がおられたので、音楽家の方には処方しないようにしています。

〔ミケラン、カルテオロール〕

20年位前は私もよく処方した薬剤です。インデラルと同様に速効性があり、効き目も強力ですが、筋肉痛や肝機能低下が出やすいという欠点があり、現在は原則として処方は行っておりません。

〔メインテート、ビソプロロール〕、 〔テノーミン、アテノロール〕

同じβブロッカーの仲間でも、メインテート(ビソプロロール)やテノーミン(アテノロール)は、あがり症に対する治療効果は弱いので、私は処方しません。インデラルの替わりに個人輸入したが効かない、という患者さんが時々来院されます。



あがり症治療におけるインデラルの服用方法


 インデラルは有効性が高く、安全性も高い、あがり症の治療には欠かせない薬剤です。緊張時の動悸や震えに対する特効薬と言えます。とは言いましても、服用する際には副作用に十分な注意が必要です。以下に、あがり症治療におけるインデラルの上手な使い方や、使用上の注意点について御説明したいと思います。


当クリニックで処方されるインデラル(太陽ファルマ社)


当クリニックでは、多くの方がインデラルを上手に使って、あがり症を着実に改善しています。ほとんど薬を飲まなくても大丈夫になる方もおられます。

最初は、インデラルを、緊張場面の前に指示通りに服用します。植村クリニックでは、インデラルは品質に優れた先発品を処方しますので、ほとんどの人が1錠の服用で十分な効果が得られます。海外のジェネリックを服用した場合は効果にかなりのばらつきがあり、1回に4錠も服用するようになる人もいます。

薬を指示通りに服用すれば、通常、動悸・震えには奏功しますので、動悸・震えが主症状の方は、薬を飲んでおけば大丈夫、という安心感を次第に感じるようになってきます。

安心感が生じ、緊張感が緩和してくると、気持ちがリラックスするだけでなく、普段から震えやすくなっていた筋肉自体もリラックスしてくるので、少し位薬を減らしても、震えがおこらなくなってきます。
具体的な薬の減らし方については、クリニックで主治医の先生の指導を受けましょう。


インデラル服用上の注意点と副作用

以下の方は服用できません。

1.気管支喘息のある人。喘息発作が悪化し、重症化します。
2.心臓病の種類によっては服用できません。
3.低血圧の人。
上記以外にも色々ありますが、持病のある方は主治医に相談されることをお勧めします。

以下の方は慎重に服用する必要があります。

1.徐脈(=脈が遅い)の人・・・脈拍がさらに減少します。
2.降圧剤を服用中の方・・・血圧がさらに低下します。
3.血糖降下薬使用中、あるいは血糖値が低めの方・・・低血糖発作がおきやすくなります。
4.末梢循環障害のある方・・・末梢の血液の流れが低下する可能性があります。

併用禁止の薬
1.マクサルト(片頭痛治療c)・・・インデラル服用24時間以内はマクサルトの服用はできません。

併用注意の薬は少なくはありません。
他の薬を服薬中の方は主治医に確認しましょう。

主な副作用

1.アレルギー(発疹等)・・・私には経験ありませんが、アレルギーが出たら服用中止しましょう。
2.低血圧・・・緊張場面では血圧は上がっているので、普段の血圧が正常の人なら通常、問題になりません。
3.胸部不快感など・・・まれに認めます。
4.頭痛など・・・まれに認めます。
5.気分の変化・・・まれに認めます。
6.霧視など・・・きわめてまれに認めます。
7.口渇、胃部不快感、便秘、下痢・・・まれに認めます。
8.その他、血液検査の異常など・・・あがり症の頓服程度で異常がでることはきわめてまれです。

副作用対策 おかしいと思ったら、いったん服薬中止し、主治医に相談しましょう。副作用がでてなくても、年1回健康診断を受けて、血液検査、心電図検査、尿検査を受けておきましょう。自覚症状がなく、健康診断も正常なら、まず心配ないでしょう。
インデラルについての詳しい説明(日経メディカル)はこちらとなります。


本郷三丁目・植村クリニック (東京都文京区)
院長  植村 秀治