社交不安障害・あがり症の薬物療法
本郷心療内科院長 植村秀治)

東京の本郷心療内科では、現在、予約受付中です。

 社交不安障害(SAD、社会不安障害)という病名をインターネット等で見かけることが多くなりました。社交不安障害の定義の詳細は他のHPに譲りますが、あがり症で病院を受診されるような方は、社交不安障害と考えて良いでしょう。

 私はこれまで大津の旧植村クリニックと東京の本郷心療内科で、十数年にわたり9000人以上の社交不安障害の患者さんを治療して参りました。ここでは、私のこれまでの経験を生かして、社交不安障害の薬物療法について御説明したいと思います。社交不安障害でお悩みの皆様のご参考になれば幸いです。

 さて、最近、社交不安障害という病名が急に目につくようになったわけはなぜでしょうか? それは、SSRIというタイプの抗うつ剤(フルボキサミン、パロキセチンなど)が社交不安障害の治療薬として厚生労働省に認可されるようになり、製薬会社がこの種の薬をあがり症の人々に服用してもらおうと積極的に宣伝を始めたからです。SSRIは、20年位前から抗うつ剤として使用されており、特別な新薬が発売されたわけではありません。

 ところで、社交不安障害のマスコミでの取り上げ方をみておりますと、社交不安障害で悩んでいる人は全国で300万人もいる、今回初めて治療薬が出来た、SSRIを服用すれば生涯の悩みから解放される、との論調が一般的です。まるでSSRIだけが唯一の特効薬であるかのようです。一部の社交不安障害にSSRIと呼ばれるタイプの抗うつ剤が大変効果的なのは事実ですが、多くの社交不安障害の患者さんにはSSRIの服用は必要ありません。他にも十分有効で安価な治療薬が存在します。

 私の植村クリニックと東京の本郷心療内科での社交不安障害の治療経験から申し上げて、社交不安障害の治療においては、患者さんの症状ばかりではなく、置かれている環境等もよく考慮して、数種類の薬を適切に使い分けていくことが重要と考えております。以下に、私のこれまでの経験に基づいた社交不安障害の薬物療法の要点をまとめてみました。本郷心療内科を受診される予定の方は、受診前に是非ご一読願いたいと思います

            
 

社交不安障害・あがり症の薬物療法に使われる薬剤

1.β-ブロッカー
動悸・震えを強力に抑制する心臓関係の薬です。血圧を下げる作用もあります。緊張場面の前に服用します。私がよく処方する薬は、アロチノロール、インデラル、カルテオロールです。人前で話す時などに、動悸がして声や手足が震えるような人には、著明な効果が得られます。人前で字を書く時や、お茶を出す時、演奏会で楽器を演奏する時などに手が震えるような人にも奏功します。緊張していなくても体質的に手などが震える本態性振戦という病気には、アロチノロールが特効薬とされています。あがり症で震えが主症状の人は、軽度の本態性振戦とも考えられます。私は震えが主症状の患者さんは神経内科的なアプローチであるβブロッカーで治療すべきであって、SSRIのような精神科的な治療法で治そうとするのは誤りであると考えています。ただし残念ながら、精神科の医師の中にはβ-ブロッカーの処方に不慣れで、処方したがらない人も多くみられます。また、喘息があったり心臓病があると使用しづらい場合があります。

2.抗不安薬
いわゆる安定剤のことです。不安・緊張を和らげ、気分をリラックスさせます。緊張場面の前に服用するようにします。私がよく処方する薬は、セパゾン、セニラン(=レキソタン)などです。緊張場面の前にアルコールを一杯ひっかけていく人がいます。抗不安薬はアルコールと似た効果がありますが、アルコールより安全です。ただし、乱用すると依存症になります(医師の指示通りに服用すれば心配いりません)。最近はできるだけ必要最小量を使用すべきであるとの考え方になっています。

3.SSRIと呼ばれるタイプの抗うつ剤
元々はうつ病やパニック障害の治療薬でした。十数年前から社交不安障害の患者さんの治療に使用されるようになりました。どちらかというと、引きこもり気味の症状の重い患者さんで効果を発揮します。日本ではフルボキサミン(デプロメール)、パロキセチン(パキシル)、セルトラリン(ジェイ・ゾロフト)、レクサプロの4種類があります。

SSRIの効果を得るためには、十分な量を毎日服用しなければいけません。有効量に個人差があるので、定期的に通院し投与量を調節する必要があります。
飲んですぐ効く薬ではありません。効果発現までに10日〜2ヶ月程度見込んでおく必要があります。この薬が効いてくると、一日中気持ちが明るく積極的になり、あまりクヨクヨしなくなるという特徴があります。

SSRIが効きすぎると、楽観的になりすぎて言いたい放題になったり、浪費したり、物事を適当に済ませたりする可能性があり、十分な注意が必要です。このような問題から本郷心療内科ではSSRIの処方は中止しております。SSRIは他の薬に比べて値段が高いのも欠点の一つですが、製薬会社にとっては莫大な利益をもたらしますので、製薬会社はあがり症のパンフレットをいくつも作成して病院の待合室においてもらうなど、熱心にPRしています。

4.その他の薬剤
緊張場面で吐き気がしたり、下痢、腹痛などがする場合は、消化器用の薬も使用します。顔面等からの発汗で悩んでいる方には、汗止め用の薬も使用します。


社会不安障害・あがり症の治療薬剤の選択

個々の患者さんにどの薬剤を使用するかは、社交不安障害の症状だけでなく、緊張場面の頻度、緊張場面の予想が可能か、定期的な通院が可能か、他の精神症状や身体疾患がないかなどを総合的に検討して処方を考えていくことになります。私は基本的には次のような方針で処方しています(現在、本郷心療内科ではAのみ)。

A.β-ブロッカー(+抗不安薬)による療法を優先
a. 社交不安障害の主症状が動悸、声、手、足等の震え、顔面のこわばり等で、緊張場 面が会議、朝礼など特定の場面に限定されていること
b. 緊張場面が予想可能で、30分〜2時間位前に服薬可能であること
喘息がないこと。血糖降下薬を使用していないこと。

B.SSRIを優先(必要によりA.も併用)
a. 緊張場面が会議等に限定されず、外出するだけでも緊張するなど、日常生活の多くの場面で緊張してしまう場合。
b. 緊張場面を予想することが困難で、Aの薬剤を使用しにくい場合。
c. 主症状が動悸や震え以外で、Aの薬剤の効果が期待しにくい場合(例えば、赤面症の一部など)
d.社交不安障害以外に、うつ病、パニック障害、強迫性障害、月経前の強い抑うつ・イライラなどがある場合。
定期的な通院が可能であること

例えば、結婚式のスピーチで声や手が震えるのが心配だが、他の日常生活には問題がない、というような方は、Aの薬を当日一回服用すれば十分です。たった一回の緊張場面のために、SSRIを何週間も前から毎日服用する必要はありません。それにSSRIの方がよく効くという保証もありません。会社で月一回程度、会議や朝礼で発表があって不安という人、コンサートで演奏の時に手が震えるのが心配などという人も、当日だけAを服用すれば十分でしょう。

一方、営業活動などで毎日取引先で話すのが苦痛とか、人前で話す時などだけでなく、電車に乗るだけでも緊張してしまい外出も不安、などという場合はSSRIの方が好ましいと思います。このようなタイプの社交不安障害の方を抗不安薬だけで治療しようとすると、薬を飲みすぎて依存症になってしまう危険性もあります。

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